ご覧いただきありがとうございます。英語教育者の永田勝也です。
文法を理解することで、英語学習の世界を色鮮やかに。ビビッド英文法シリーズの今回はビジネス英語と過去形を取り上げてみます。
「英語には敬語がないらしい・・・」
こんなことを聞いたことはありませんか。
ビジネスパーソンの方々にとって敬語は人間関係のためにも必須です。
何をもってビジネス英語とするかは難しいところですが、少なくとも敬語を使った表現=ビジネス場面での表現と言うのは間違っていないですよね。
もちろん英語にも敬語にあたる言葉はたくさんあります!
今回はその中でも過去形に注目をして、日本語と比較しながらお届けします。
目次
ビジネス英語と日常英語は何が違う?
そもそもビジネス英語とは何なのか。
まずはそんな定義が必要ですが、厳密に日常英語とビジネス英語の境目があるわけではありません。ビジネスの場面で使う英語をビジネス英語と呼ぶことが多いようですが、ビジネス場面でも話す相手との関係性、年代や環境、社内か社外かで大きくコミュニケーションは変わります。
日本の会社でも、現在はチャット形式でカジュアルなコミュニケーションを好む会社もありますし、過剰な敬語が意思疎通を妨げていると考えている日本人も少なくありません。
英語でも、親しげに話すときもあれば、社外でのコミュニケーションにおいて、慎重に一語一語選んで話す必要がある場面もあるでしょう。
結局のところ、直接的にカジュアルに話していい場面と、間接的、婉曲的な表現で話すべき場面があり、後者の場面では敬語が必須となります。そんなときに使われる表現をビジネス英語としたいと思います。そして、そこで必要なのが過去形です。
過去形が敬語になる?
過去形は文字通り過去のこと表すときに使われますが、実はそれだけではありません。
英語に限らず、実は日本語でも同じような現状が起きるので見てみましょう。
例えば、服を買いにお店に行って試着したあと、店員の方が購入意思を聞きます。
店員:こちらでよろし( )でしょうか。
ここに入るのは、日本人の感覚だと2つありえそうですね。
1つは「こちらでよろしいでしょうか」という聞き方。そして、もう一つは「こちらでよろしかったでしょうか」ですが、なんとなく過去形にした後者のほうが丁寧な感じがしませんか?
他にも例を見てみましょう。沖縄旅行から帰ってきたあなたは職場にお土産のちんすこうを持ってきました。メモ書きとともに、ちんすこうを置いておきます。メモには・・・
( )、どうぞ!沖縄旅行のお土産です。
ここには、「よければ」か「よかったら」のどちらが適切でしょうか。
どちらでもいけそうな気がしますが、日本語ネイティブであれば、「よかったら」を選ぶと思います。そして、そのほうが丁寧な感じがしませんか?
ここでわかることは、過去形には丁寧さを表す機能があるということ。
そして、その本質は距離感にあります。自分を相手よりも遠ざけて、その距離感を表します。なので、相手と同じ現在形ではなく、あえて過去形にすることで距離感を出す。実はこんな表現を日本語では使っています。
英語の敬語表現とは?
今度は英語で考えてみましょう。
以下の例文が持つ丁寧なニュアンス、感じ取れるでしょうか
A: Could you do me a favor?
B: Sure.
A: I would appreciate if you could give me a piece of advice.
B: Sure. Let me see the report.
A: I was wondering if you could offer any discount on this product. It seems a bit expensive to me.
B: Well, I’m afraid this is the discounted price, sir.
あえて和訳をのせていないのですが、英語の過去形が表す距離感が感じられるでしょうか。
英語も過去形を使うことで、相手との距離感を作ることができ、結果的に敬語表現になるということです。なので、中学校で習うWill/Can you ~?よりもWould/Could you ~?のほうが丁寧になるというのも、過去形がもつ距離感で説明ができます。
さらに、I was wondering ~のように過去進行形にすることで、「・・・できたらな~なんて一瞬思ったんですが」という意味になるので、より距離感を感じませんか?
ほんのちょっと一瞬だけ思ったんですよ、という感じです。
こんな距離感がいわゆる丁寧な表現、すなわち英語の敬語的な表現になります。こう見ると、日本語と英語も共通していることがたくさんありますね。
過去形の距離感が表す他の意味も理解
他にも、あえて過去形を使うことで、ニュアンスが変わる文はたくさんあります。
例えば、以下のような場合です。
A: Don’t you think it’s risky?
B: Of course there is always some risk, but… it wouldn’t be a problem… I guess.
この場合のwouldはwillの過去形ですが、willと比較すると何か自信のなさを感じませんか?
「だ、大丈夫・・・なはず。」こんな感じでしょうか。
大丈夫だと言い切れない自信のなさから、過去形にすることで距離感が出ているんですね。こんな返答が帰ってきたら、ちょっと心配になってしまうかもしれませんが。
A: I wish I had a beautiful girlfriend like you do.
B: I’m sure you can! Why don’t you use a dating app?
これは仮定法なんて言われる文法です。
現実じゃないことを表現するときに使う妄想的な表現で、難しいと思っている方が多い文法の1つです。形は過去形ですが、表現している内容は現在の状況です。
なぜ仮定法で過去形や過去完了形を使うのか。
ピンときた方もいると思いますが、現実ではない妄想の表現なので、思い浮かべながら話しているのです。ちょっと遠い方向を見ながら。
この距離感が過去形や過去完了形になって表現されているんですね。
まとめ
過去形がもつ距離感、感じていただけたでしょうか。
その距離感が間接的な表現として敬語になり、ビジネス英語の一つの表現として使われます。
それ以外にも、離れた距離感が自信のなさや妄想になったりするわけですね。そしてこれは英語に限らず、日本語でも近いことが起こります。
形に惑わされず、その文が伝えているメッセージを感じる。
文法が表現の一つであるということですね。ぜひビジネス場面で実践してみてください!
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