TOEICは英会話に必須!?~使える英語と使えない英語~

この記事はこんな方におススメ!
  • TOEICを勉強しているけど、英語が話せなくて不安な方
  • 英会話を上達させるためのステップを理解したい方
  • 英会話ができるようになりたいけど、何から始めればいいかわからない方

ご覧いただきありがとうございます。英語教育者の永田勝也です。

この記事では、もはや知らない人はいない英語の資格となったTOEIC L&R(以下、TOEIC)に関して、英会話との関係をお伝えします。TOEICに対する批判は様々な観点からあるかもしれませんが、あくまで英会話との関係という点に絞りお伝えします。

「TOEICを勉強しても、結局話せるようにはならないの?」

「英会話ができるようになりたいなら、TOEICの勉強はしないほうがいいの?」

こんな疑問、ありませんか?
TOEICのスコアは使えない英語と揶揄されることもありますが、果たしてそれは事実なのか。私の経験や教育者として数百人を見てきた経験、第二言語習得論の観点も交えてお伝えしますね。

TOEICと英会話は英語力を測る別の物差し

結論ですが、TOEICと英会話では測りたいものが違います。
三角定規では角度が測れないように、長距離走と短距離走の選手を比較できないように、同じ英語でも測りたい英語力の領域が異なります。なので、TOEICを『使えない英語』と揶揄すること自体がすでにナンセンスなわけです。

同時に、英語力を測る指標としてTOEICだけに頼ってしまっている状態も良くありません。
留学生を選考する場合はTOEFLという4技能すべてを測る試験が使われるように、目的にあわせてバランス良く英語力を測る必要があります。

TOEICで求められる勉強とは?

まず大前提として、TOEICはListeningとReadingの力を測る試験です。
そこで、対策として単語や文法が確実にわかる状態を目指します。それを前提として、リーディングでは、読みながら内容が理解できることは必須ですし、問に対する答えの根拠を探す情報処理能力も必要です。

また、リスニングは純粋にリスニング力だけではありません。
TOEICのリスニングは質問を先に読んでから、会話やスピーチを聞きます。なので、先に質問を素早く読む速読力が必須ですし、何より答えを探しながら聞く練習が欠かせません。

英会話で必要な力とは?

英会話にも実はいろいろな種類があります。意見を説明したり、写真やグラフなどを描写したり、質問に瞬時に答えたりします。総じて、知識をベースに自分で英語を出す、いわゆるアウトプットをします。

そのときに、私たちは伝えたいメッセージをおそらく日本語で思い浮かべ、それを英語で表現するという方法をとります。もちろんレベルが上がれば上がるほど、それは自動的になり、英語を英語のまま考えることになります。ですが、最初の段階では、日本語を通して英語を操るプロセスを経験します。

その際に、日本語⇒英語がスムーズに変換できなければ、当然ながら伝えたいメッセージをスムーズに伝えることができません。TOEICではこのスキルは必要ありませんが、英会話では必須です。ちなみに、大学時代の私も815点を取得しましたが、英語はほとんど話せませんでした。

まとめ

TOEICも英会話も、英語力をそれぞれの物差しで測っていることは事実です。
なので、TOEICのスコアから測れる英語力も正しいし、英会話の力で測れる英語力も正しいわけですね。

ただし、TOEICで測れた英語力がすべてではありませんし、英会話で測れる英語力がすべてでもありません。例えば、英語がペラペラでも、英語力が実はあまり高くない方はいるんです。そんな話を次に説明します。

帰国子女はTOEICでスコアが取れない!?

英語がペラペラな話せる帰国子女でも、TOEICのスコアは800点程度になってしまうことはよくあります。もちろん人にもよりますが、一見すると英語のNative Speakerのように話すのに、資格試験になるといまいち成果が出ない。そんなこともあります。

私もECC時代やオンライン英会話の講師をしていたときに、こういった受講生によく出会いました。リスニングはほぼ満点のスコアをとる一方で、リーディングができないのです。

こういった例も踏まえて、TOEICのスコアはあてにならないと言われたりします。もちろん、スコアが高い=英会話ができるというのは必ずしも正しいわけではありませんが、しっかりとした英語力を持っている方は、英会話はもちろん、ある程度対策をすればTOEICでも900点以上のスコアが必ずとれます。

こんな状況を説明するのに、生活言語と学習言語という2つの力が便利です。

生活言語は日常生活に必要なもの

生活言語はBasic Interpersonal Communication Skillsと英語で呼ばれ、頭文字をとってBICSと言ったりもします。文字通り日常生活で使われる言語です。

例えば、買い物のときやあいさつなどの生活場面での対人コミュニケーションを指しています。BICSは大体2年くらいで習得できてしまうと言われています。なので、帰国子女は発音のキレイさもあり、一見するとNative Speakerのように見えます。

学習言語は、ただ話せるだけでは不十分

それに対して、例えば新聞の社説の内容を理解したり、学校であれば文章読解がしっかりできるようになるためには、BICSだけでは不十分です。

そこで、BICSとは異なり、学習言語と呼ばれる別の力が必要です。
学習言語はCALP(Cognitive Academic Language Proficiency)と呼ばれ、Cognitiveは認知的という意味です。その文字から想像できる通り、「考える」というプロセスが発生するもので、習得には5年くらいはかかると言われています。

ちなみに私たち日本人も、日本語が母語にも関わらず、学校で国語を学びます。
そして、日本語のNative Speakerでありながら、(少なくとも私は)国語のテストでは満点がとれません。これもCALPの力が不十分だからです。

資格試験で必要な力はどっち?

TOEICや他の資格試験では、CALPの力もある程度求められています。
なので、英語がペラペラな帰国子女だからと言って、必ずしもTOEICで高得点が取れるわけではないということですね。

『英語が話せる』と一言で言っても、実は非常に複雑で、『何ができるか』を考える必要があります。少なくとも、BICSもCALPも、どちらも言葉を操る力として必要であることは間違いないですね。

TOEICを勉強してから英会話の勉強は遠回り!?

TOEICの知識が英会話に役に立たないのかというと、決してそんなことはありません。
英会話はアウトプットですので、伝えたいメッセージを瞬時に言葉で出す練習が必要です。それのためには、そもそも知識として単語や文法を知らなければできませんよね。

ここで、私たちの頭の中にある知識について、少し第二言語習得論の観点も交えて確認しましょう。知識(いわゆるインプットして覚えたもの)は長期記憶という入れ物に入っており、それらはざっくりと顕在(けんざい)記憶と潜在記憶の2つの種類にわけることができます。

顕在記憶(Explicit Memory)

宣言的記憶(Declarative Knowledge)とも呼ばれますが、旅行の思い出などのように意識して思い出せるもの、口頭で説明できるものを指します。

英語の勉強においては、単語の意味を覚えたり、文法を理解して解説する場合などが該当します。例えば、TOEICのPart5の文法問題では、答えの根拠を考えて解いているはずです。そのときに頭の中では、顕在記憶をベースに回答していることになります。

潜在記憶(Implicit Memory)

手続き的記憶(Procedural Knowledge)とも呼ばれ、無意識的に使える知識のこと指します。例えば、自転車に初めて乗るときには、バランスのとり方を意識して覚える必要がありますが、一度乗れるようになってしまえば、自然と身体がバランスを覚えています。むしろ、そのバランスのとり方を言葉で説明することのほうが難しいですよね。

言葉の習得で考えてみましょう。
日本語のNative Speakerである私たちの感覚を、日本語を学んでいる外国人に説明できるでしょうか。おそらく、日本語教師でもない限り、できないでしょう。

『わかりにくい』と『わかりづらい』は、どんなときに使い分ければいいんですか?

会話力には潜在知識が必要

会話において必要なのは、潜在記憶と顕在記憶のどちらでしょうか?
当然のことながら、潜在記憶としての英語の知識が必要です。そもそも、思い出そうとして単語の意味を考えたり、文法を考えてしまっていては、リアルタイムの会話に追いつけないですし、考えるという行為に脳のエネルギー(認知リソースと言います)を使ってしまいます。

ではTOEICの知識が何に役に立つかというと、顕在知識として単語や文法がしっかり定着しているという点です。第二言語として学んでいる英語は、顕在知識として覚えていますが、練習によって無意識的に使える潜在知識に変えることができるのです。これを自動化と呼びます。

TOEICの勉強を通して身につけた英語の顕在知識は、それだけでは使えませんが、使える英語のための土台にはなっているということです。なので、TOEICに限らずあらゆる英語の資格試験を通してしっかり英語の学習をしてきた方は、英語環境に行くと数か月程度である程度話せるようになってしまうケースが多くあります。持っていた知識をスムーズに使える知識にすることに成功した例ですね。

まとめ

TOEICの勉強をしたからといって、英語が話せるようにならないというのは事実です。
ですが、TOEICの勉強をすることで、英会話の土台はしっかり作ることができています。そして、それを実際に使う練習を別途すれば、当然ながら英語は話せるようになります。

第二言語習得論の観点からもいろいろお伝えしましたが、TOEICも一つの英語力の指標としてぜひチャレンジしてみてください。必ず得るものはありますよ。