ご覧いただきありがとうございます。英語教育者の永田勝也です。
科学的な英語学習
最近いろいろな英語スクールが打ち出しているこの言葉、皆さんも聞いたことがありませんか?
科学的という言葉が使われたときは、第二言語習得論と呼ばれる研究内容を指していることがほとんどです。
今回の記事では、そんな第二言語習得論を完全サルワカ解説していきます。今日からの英語学習に対して、今よりも確実にポジティブに、そして自信を持って取り組めるようになる内容です。
ちなみに私は大学院でTESOL(英語教授法)を学び、その中で第二言語習得論も学んでいますので、専門としている内容です。
目次
第二言語習得論とは?
人間は外国語をどうやって学んでいくのか。
端的に言うと、こんなことをテーマにしている学問が第二言語習得論です。ちなみに英語ではSecond Language Acquisition(通称;SLA)と呼ばれます。
私たちにとって母語は日本語で、英語は外国語ですが、母語以外の言語はすべて第二言語と呼ばれます。なので、大学時代に学んだフランス語も私にとっては第二言語です。ちなみにMerci以外はわかりません。
母語の習得は基本的に誰もが成功しますが、第二言語の習得は様々な要素が複雑に絡み合っているので、失敗に終わることが多々あります。言語の側面だけではなく、社会との関わりの中で求められるコミュニケーションを身につける必要もありますし、学習のモチベーションも欠かせません。
そこで、言葉にフォーカスする言語学だけではなく、社会言語学、心理学、教育学、神経科学など、複数の領域にまたがって第二言語の習得の過程は研究されています。そんな外国語習得のメカニズムの研究をベースにしたものを科学的な英語学習と呼んでいます。
第二言語習得論とは、第二言語(外国語)を身につけていくメカニズムを研究する分野のこと
SLA的視点1.日本人にとって英語は難しい?
外見的なイメージもあるかもしれませんが、フランスやドイツの方って英語も上手に話せる感じがしませんか?
実はこのイメージはけっこう正しいです。逆に私たち日本人にとっては、英語が話せるようになるのはハードル高めです。この違いを考えてみましょう。
日本語と英語は赤の他人?親戚?
- 日本人にとって英語を身につけるのは難しい?
- ヨーロッパの方にとっては英語は簡単?
なんとなく感じるこの感覚は正しく、その理由は第二言語習得では母語の影響を強く受けるからです。ヨーロッパの皆さんにとって母語であるフランス語やドイツ語は英語と親戚関係にあると言えます。反対に、日本語と英語は赤の他人レベルなんです。
このように、ある言語と他の言語がどれくらい似ているのかを表すときに、言語間距離という指標を使います。そして、言語間距離を測るには、祖語(そご:その言語の元になる言葉)が1つの基準になります。
例えば、ポルトガル語とスペイン語は別の言語ですが、2つの言語は歴史的背景から言語間距離が非常に近く、お互いの言語で何となく意思疎通はとれてしまうと言われています。
ちなみに日本語と言語間距離が近い言語は韓国語が有名ですね。文字は異なりますが、文法などの構造面で似ている部分が多いので、学習しやすいと言われています。
日本語と英語の違いを理解する
日本語と英語は違いだらけなんですが、中でも決定的な違いは何でしょうか?
文字の違いは大きいですが、日本語でもアルファベットは使うので、私たちにとってはアルファベットそのものは難しくないですよね。
実は習得に大きな影響を与えている違いは語順です。
昨日は妻とマルイへ買い物に行ってきました。楽しかったですよ。
(Yesterday/ with my wife/ went shopping at Marui/ was fun/)
I went shopping at Marui with my husband yesterday. It was fun.
日本語と同じ感覚で、覚えた英単語をもとに文を作ろうとすると、順番がゴチャゴチャになってしまいます。リスニングになると、特に理解が追い付かなくて大変かもしれません。
ちょっと余談ですが、英語が母語である外国人が日本語を学ぶと、会話の登場人物を理解するのに非常に苦労するようです。日本語は1人称(自分)視点の言葉なので、あえて「私は」的な主語にあたる言葉をあまり使いません。それに対して、英語は3人称(他者)視点なので、必ず主語に当たる言葉が必要です。
なので、会話の中で「今だれの話してるの?」となってしまうわけです。これはベトナムでもよく言われました・・・。
いちばん難しい!?英語の発音
語順の違いも大きな影響がありますが、個人的にはこの音声面での違いが非常に高いハードルだと思います。
日本語は母音が「ア・イ・ウ・エ・オ」の5つですが、基本的に一つ一つの音に母音が入っています。例えば、「車」であれば、KU・RU・MAとなり、すべての音に母音が入っていますよ。なので、発音するときには、一つ一つの音をはっきり言う傾向があります。
それに対して英語は、子音のみで終わる単語もあります。
例えば、” sit “という単語は/ t /という音で終わっています。” sit “を日本語っぽく読んでしまうと、/ sitto(シット)/になってしまいます。実際には、この/ to /と/ t /は音が違うので、カタカナ表記とは一致しません。
なので、新しい発音の仕方を身につける必要があるので、非常に高いハードルです。
ちなみに初めてrhythm(リズム)という子音しかない単語を見たときは、夜も眠れないほど震えました。
日本語と英語は言語間距離が離れているので、日本人が英語を学ぶのには多くの時間をかける必要がある
SLA的視点2.英語学習と気持ちの関係
英語を勉強するなら、皆さんはどちらを先生にするほうが良いと思いますか?
- 英語が母語のネイティブスピーカー
- 英語学習を経験した日本人
やっぱりネイティブのほうが良さそう・・・と思うかもしれませんが、こんなこともSLAで研究の対象になります。詳しく見ていきましょう。
ネイティブ最強説!?
ネイティブスピーカーの強みは、何と言ってもリアルな英語を教えることができることです。
先生が話す言葉そのものが、学習者にとってはインプットになりますよね。同時に、英語が話されている国の文化や考え方を知るきっかけにもなります。
かつて、ネイティブスピーカーのほうが、先生としてあらゆる面で優れていると主張するNative Speaker Fallacyなんて考え方もあったくらいです。ちなみにFallacyは『間違った考え』という意味です。
ですが、SLAで学習者の心理状態なども研究されていくと、緊張感や不安感、モチベーションが言語習得には大きな役割を持つことが明らかになりました。
ネイティブと英語を話す場合は、不安感や緊張感が生まれますよね。反対に、非ネイティブ(日本人、外国人問わず)と話す場合は、お互い気楽に話せることが多いです。また、日本人の先生を見て、「先生みたいに自分も英語が話せるようになりたい!」と思って、勉強のモチベーションになるかもしれません。
心理状態を表すAnxiety; 不安感やMotivation; モチベーションはSLAでもよく研究されるものです。
先生を上手に使い分けよう
結局のところ、ネイティブの先生も、日本人の先生もそれぞれ良いところがあります。なので、上手に使い分けていく必要があります。
リアルな英語をインプットとして浴び、発音などの音声面に加えて、文化もしっかり身につける目的ではネイティブの先生がベストです。
そして、英語を話すことに慣れたり、日本人の視点で学習アドバイスをもらい、モチベーション高く取り組む目的で日本人の先生を選びます。特に、すでに説明したような日本語と英語の違いをしっかり理解しているのは、先生として心強いですよね。こういった日本人目線でのサポートは、ネイティブの先生には難しいです。
なので、日本人の先生にしかできないこともあるんです。
心理状態も英語の習得に影響するので、日本人の先生とネイティブの先生のメリデメを理解して上手に使い分ける
まとめ
今回は第二言語習得論の考え方などを、かな~りシンプルに説明しました。
ここで1つ注意です。
科学的という言葉を使うと、あたかも正解があるように感じるかもしれません。ですが、実際にはSLAの研究でも、『絶対●●!』というものはないとされています。ですが、SLAの視点を知っておくだけで、闇雲に英語の勉強をするということはなくなると思います。
SLAはどちらかというと、英語教育者にとっての研究とされることが多いです。
ですが、むしろ英語学習者こそ知るべき内容だと思います。どんな勉強をしていけばいいか、必ずヒントになります。それが、効率的に勉強することにつながりますよ!
本記事を書くにあたり、参考にした本を紹介しますので、ぜひ読んでみてくださいね。